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松山地方裁判所大洲支部 昭和43年(ワ)19号 判決

原告

徳田キヨ子

ほか四名

被告

亀岡稔

ほか二名

主文

被告らは連帯して原告徳田キヨ子に対し金四五万円および内金四〇万円に対する昭和四二年九月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、その余の原告らに対し各金二二万五、〇〇〇円および内金二〇万円に対する昭和四二年九月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

被告らに対する原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

この判決は、被告ら三名(連帯)に対し、原告徳田キヨ子において金一五万円の、その余の原告らにおいて各金七万五、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは連帯して原告徳田キヨ子に対し金一六六万九、八九〇円および内金一五五万六、五〇〇円に対する昭和四二年九月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、その余の原告らに対し各金八九万一、六四〇円および各内金七七万八、二五〇円に対する右同日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  事故の発生

昭和四二年九月一四日午後五時二〇分ころ、愛媛県喜多郡長浜町大字柴字広方乙七四八番地の一先の通称都梅林道において、被告亀岡稔運転の普通貨物自動車(愛媛四さ七五六六、以下被告車という。)が同所に設置されていたガードレールを突破つて右道路から約三〇メートル崖下に転落し、そのため被告車に同乗していた訴外徳田熊五郎(以下亡熊五郎という。)が脳挫傷により即死した(以下これを本件事故という。)。

2  責任原因

(1) 被告亀岡稔の責任

被告亀岡稔は、次のような過失により本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条により本件事故によつて生じた後記損害を原告らに賠償する責任がある。

すなわち、本件事故現場付近は、幅員約三メートルの未舗装道路で、長浜町都梅部落から同町白滝部落に向つて約一〇〇分の六の下り勾配をなし、かつ、同方向に右廻りのU字型急カーブをなしており、右側は路面より高くブロツク造りの擁壁、左側は切り岸状の山肌で、その先の右U字型カーブの頂点付近は前記ガードレールが設置されており、その左外側は約三〇メートルの深い崖となつている。また被告車は六二年式の古い車で、かねてから故障が多く、フートブレーキの利きが悪かつた。このような場合、被告車を運転する者としては、万一フートブレーキに故障が生ずることのあることを慮り、いかなる場合にも余裕を機宜の措置がとれるよう、右カーブの相当手前においてフートブレーキの利き具合を確かめ、もしフートブレーキが利かないことが判れば、時機を失せず、サイドブレーキを引いて速度を落とし、右カーブに応じて把手を右に切り、なお必要やむをえないときには道路右側の前記擁壁に被告車を接触させて停止させるなど機宜の措置を講じ、被告車をして右カーブ外側の崖下へ転落させることがないようにして事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。

しかるに、被告亀岡稔は、これを怠り、日頃通り慣れた道であることにまかせて漫然と前記カーブを前記方向に右廻りしようとし、同カーブの手前約一五メートル付近まで進行したとき、突然フートブレーキに故障が生じたことを知るや、周章狼狽し、フートブレーキを踏むことを繰返したのみで、何ら応急の措置を採らなかつた過失により、被告車をそのまま直進させて、同カーブの頂点あたりから前記ガードレールを突破つて崖下に転落させ、もつて本件事故を惹起したものである。

(2) 被告一宮亀久雄の責任

被告一宮亀久雄は、被告車の所有者であり、かつ本件事故当時その被用者である被告亀岡稔をして自己のためにこれを運転させていたものであるから、自賠法第三条により本件事故によつて生じた後記損害を原告らに賠償する責任がある。

(3) 被告一宮建設株式会社(以下被告会社という。)の責任

被告会社は、次のような事実関係にもとづき、自賠法第三条ないし民法第七一五条により本件事故によつて生じた後記損害を原告らに賠償する責任がある。

すなわち、本件事故は、都梅林道建設工事に従事する人夫を運搬中に惹起されたものであるところ、右工事は被告会社が長浜町から請負い、これを被告一宮亀久雄に下請させていたものである。しかして被告一宮亀久雄は被告会社の代表者一宮能和の父親であつて、被告会社と被告一宮亀久雄は極めて密接な関係を有しており、右工事についても、被告一宮亀久雄の被用者である被告亀岡稔は、被告会社からも直接間接に指揮監督を受けており、かつ、また被告会社は被告車の運行を支配していたものである。

3  損害

(1) 亡熊五郎の損害 合計金四六六万九、五〇三円

イ 逸失利益 金二六六万九、五〇三円

亡熊五郎は、本件事故当時五九歳の健康な男子で、本件事故に遭わなければなお一六・四六年の余命があり(昭和四一年簡易生命表)、うち少くとも一〇年間はその職業であるブリキ職人として稼働しえたものである。しかして亡熊五郎のブリキ職人としての収入は一ケ月平均約金五万三、〇〇〇円であつたから、その生活費を月額金二万五、〇〇〇円としてこれを控除すると、その純収益は月額金二万八、〇〇〇円、年額金三三万六、〇〇〇円となる。よつて、右逸失利益の総額につき、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して本件事故時におけるその現価を求めれば、標記の金額となる。

ロ 慰藉料 金二〇〇万円

亡熊五郎が本件事故により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては標記の金額が相当である。

(2) 相続関係

原告徳田キヨ子は亡熊五郎の妻、その余の原告らはいずれもその子であり、亡熊五郎が本件事故により取得した(1)の損害賠償請求権は原告徳田キヨ子に三分の一(金一五五万六、五〇一円)、その余の原告らに各六分の一(金七七万八、二五〇円)宛相続取得された。

(3) 原告らの固有の損害

イ 慰藉料

原告らがそれぞれ亡熊五郎との前記身分関係において本件事故により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告徳田キヨ子金一〇〇万円、その余の原告ら各金五〇万円とするのが相当である。

ロ 弁護士費用

原告らは本件訴訟を弁護士吉田太郎に委任し、その際着手金として各金二万円を支払い、かつ第一審判決言渡後に訴訟物価額の一割に当る金四六万六、九五〇円を均等分した各金九万三、三九〇円の報酬を支払うことを約した。

よつて、弁護士費用の損害額は原告らにつき各金一一万三、三九〇円である。

4  損害の填補

原告らは自賠責保険から本件事故による損害賠償金として金三〇〇万円を受領しているので、これを原告らの法定相続分に応じて各自の債権額に充当すると、その残額は原告徳田キヨ子金一六六万九、八九〇円、その余の原告ら各金八九万一、六四〇円となる。

5  結論

よつて被告らに対し、原告徳田キヨ子は金一六六万九、八九〇円およびこれから弁護士費用を控除した残金一五五万六、五〇〇円に対する本件事故発生の翌日である昭和四二年九月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らは各金八九万一、六四〇円および前同残金七七万八、二五〇円に対する前同遅延損害金の各連帯支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(1)の事実中、本件事故現場付近の道路状況が原告ら主張のとおりであることおよび被告車が六二年式であることは認めるが、その余の事実は否認する。被告亀岡稔には原告ら主張のような注意義務はなく、本件事故は制動装置の突発的な故障による不可抗力事案というべきである。

同2の(2)の事実は否認する。被告亀岡稔は被告会社に雇用されていたものであり、本件事故は被告一宮亀久雄とは何ら関係がない。

同2の(3)の事実中、本件事故が都梅林道建設工事に従事する人夫を運搬中に生じたものであること、被告一宮亀久雄が被告会社の代表者一宮能和の父親であることは認めるが、その余の事実は否認する。右工事は、被告会社が直接施行監督していたものであつて、被告一宮亀久雄に下請させていたものではない。また被告亀岡稔は前記のとおり被告会社に雇用されていたものである。

3  同3の(1)イの事実中、亡熊五郎が本件事故当時五九歳の男子であつたこと、原告ら主張の生命表によると亡熊五郎の余命が一六・四六年になることは認めるが、その余の事実は否認する。

亡熊五郎の年間所得は、昭和四〇年度が金一六万円、昭和四一年度が金一八万円、昭和四二年度が金一九万七、三六四円であり、右所得では生活費が約半分を占めるものとみられるから、これを控除すると、右のうち最も所得の多い昭和四二年度を基準にしても、その年間純収益は約金九万八、〇〇〇円にすぎない。しかして五九歳の男子の就労可能年数は統計上七・九年であるから、その間の右純収益につき、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して、本件事故時におけるその現在を求めれば金六四万五、七二二円となる。原告らの主張には誇張がある。

同3の(1)ロの事実は否認する。被害者自身が自己の死亡に基づく慰藉料請求権を取得するということはありえない。

同3の(2)の事実中、原告らが亡熊五郎に対しそれぞれその主張の身分を有し、それぞれその主張の割合をもつてこれを共同相続したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同3の(3)イの慰藉料額は争う。本件事故による慰藉料は総額金二〇〇万円を限度とすべきであり、原告らの請求は過大である。

同3の(3)ロの事実は否認する。

4  同4の事実中、原告らがその主張の金三〇〇万円を受領していることは認める。

三  被告らの抗弁

1  亡熊五郎が被告車に同乗していたことについては、被告会社および被告一宮亀久雄はもとより、被告亀岡稔においても、明示的にも黙示的にも承諾を与えておらず、かつまた、亡熊五郎は被告らの不知の間に乗込んでいたものである。かかる場合亡熊五郎は自賠法第三条にいう他人に該当しないから、被告らは本件事故につき自賠法第三条の責任を負わない。

2  しかも、亡熊五郎は、被告車が定員九名のところ一一名が乗車しかつ法規に反して幌をかけていない状態で、狭隘な林道を走行するものであり、右走行には事故発生の危険性が伴うものであることを認識しながら漫然と同乗していたものであるから、本件事故は亡熊五郎の自己危険に基づく行為というべく、被告らは本件事故に関し損害賠償責任を負わない。

3  仮に以上の主張はいずれも理由がないとしても、亡熊五郎が好意的無償同乗者であり、かつ右同乗については2記載のような事情が存したことを損害賠償額の算定につき斟酌すべきである。

四  抗弁に対する原告らの答弁

抗弁1の事実は否認する。亡熊五郎は被告一宮亀久雄および被告亀岡稔の承諾を得て被告車に同乗していたものである。

同2、3の事実は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告亀岡稔の過失について

本件事故現場付近の道路状況が原告ら主張のとおりであつたことおよび被告車が六二年式の車であつたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、被告車は使い古した車で、かねてから故障が多く、とくにフートブレーキの利きが悪かつたこと、同被告は本件事故の一年位前から被告車の運転業務に従事し、しかも都梅林道建設工事が始まつた昭和四二年七月からは右工事に従事する人夫を送迎するため、朝夕被告車を運転して前記道路を往復していたもので、被告車の右特性や前記道路状況を十分知悉していたこと、本件事故当時、同被告は、いつものように、作業を終えた人夫を送るため、人夫九名と亡熊五郎が同乗する被告車を運転して右工事現場を出発し、下り勾配となつている前記道路を白滝部落に向け、ブレーキを使用しつつ時速一五ないし二〇キロメートルで進行していたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定のような事実関係のもとにおいては、同被告としては、原告ら主張のような注意義務があつたものというべきである。

しかるところ、〔証拠略〕によれば、同被告は前記カーブにさしかかり、これをいつものように時速約五キロメートルで右廻りするため、前記転落地点の手前約三七メートルの地点において初めて、続いて同じく約二八メートルの地点において更にブレーキを踏んだが、いずれも効果がなかつたため、すつかり周章狼狽し、前記のような機宜の措置により本件事故を未然に防止しえたのに、ただフートブレーキを踏むことを繰返したのみで、前記のような措置を採らず、被告車をそのまま直進させ、これを前記のとおり右道路から崖下に転落するに至らせたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の被告の運転行為には前記注意義務を怠つた過失があるものというべきである。

2  被告一宮亀久雄および被告会社の被告車に対する運行供用者たる地位について

〔証拠略〕によれば、被告車は被告一宮亀久雄の所有で、同被告はこれを、「一宮工務店」なる名称で営むその事業の用に供していたこと、被告会社は被告一宮亀久雄の子が代表者となつている同族会社で、その営なむ事業は被告一宮亀久雄の右事業と密接な関連を有し、右両者は、従来一方の名による請負工事についても、一方のみでは右工事に必要な人的物的設備が不足するときは、他方が右不足分を提供して応援するといつた具合に相互に補い合い、対外的にはあたかも一個の事業体のような活動をしてきたものであること、前記工事も形式上は被告会社が長浜町から請負い、その名において施工していたものであるが、前記のような関係から、被告一宮亀久雄が右工事のため被告車外一台の所有自動車を提供するとともに、その従業員である訴外河野恒夫、同渡部正俊、被告亀岡稔等を工事責任者等として派遣し右工事に当らせていたものであつて、右工事は実質的には被告一宮亀久雄と被告会社の共同施工というべく、被告車の前記運行については、右両者とも、運行支配と運行利益とを有し、自賠法第三条にいう運行供用者たる地位にあつたものというべきである。

3  被告らの抗弁1、2について

(1)  そこで被告らの抗弁1について考えるに、〔証拠略〕を総合すれば、亡熊五郎は本件事故当日白滝部落から前記工事現場近くに仕事に来ていたものであるが、同所は交通の便が悪かつたところから、右工事現場から白滝部落へ帰る被告車の運転者で面識のある被告亀岡稔に対し被告車への無償便乗を依頼し、その承諾を得てこれに同乗していたもので、しかも右同乗については被告一宮亀久雄や被告会社から被告車の運行管理を任されていた前記渡部正俊から予め承諾を得ていたものであることが認められ、〔証拠略〕に照らして容易に信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。よつて、被告らの右抗弁は採用できない。

(2)  次に被告らの抗弁2について考えるに、二の1掲記の各証拠によれば、亡熊五郎は、被告車が使い古した車であり、これに定員超過の一一名が乗車し、幌をかけない状態で、前記のように下り勾配で所々に急カーブのある狭隘な林道を走行するものであり、右走行には通常場合に比しより大なる事故発生の危険性が伴うことを認識しながら前記のとおりあえて被告車に無償同乗していたものであることが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)が、右認定の事実は、後記のとおり、被害者の過失として損害賠償額の減額事由となるにとどまり、被告らの民法第七〇九条ないし自賠法第三条の責任を免れさせるに足りるものではないから、被告らの右抗弁は採用できない。

4  被告らの責任と過失相殺(抗弁3)

してみれば、被告亀岡稔は民法第七〇九条により、被告一宮亀久雄および被告会社はいずれも自賠法第三条により、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるが、右損害賠償額の算定に当つては、3認定の事実を亡熊五郎の過失として斟酌し、右損害のうち八割程度を被告らの損害賠償額とするのが相当である。

三  損害

1  亡熊五郎の損害

(1)  逸失利益

イ 亡熊五郎が本件事故当時五九歳の男子であつたことは当事者間に争いがなく、同人がブリキ職人として稼働していたものであることは〔証拠略〕によりこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

そこで、亡熊五郎の収入額について検討するに〔証拠略〕によれば、亡熊五郎がその所得につき、昭和四〇年度分金一六万円、同四一年度分金一八万二、〇〇〇円、同四二年度分金一九万七、三六四円としてそれぞれ所得申告していることが認められる。しかしながら、〔証拠略〕によれば、亡熊五郎は生前その収入で無職の妻と高校に通学する子供一人を扶養していたものであること、右一家の生活費には少くとも月額金三万円を要していたことが認められ、右事実によれば亡熊五郎の収入は少くとも月額金三万円を超えていたものと推認するのが妥当であり、これに亡熊五郎の如き自家営業者の所得申告額なるものが世上一般に真実の所得額より相当低額であることをあわせ考えれば、前記各所得申告額は低額に失し、これを亡熊五郎の所得額(年間)として採用することは相当でない。

次に証人瀧口慎之の証言、原告徳田キヨ子本人尋問の結果中には亡熊五郎の月間稼働日数、稼働一日当りの粗収入額、経費等に関する供述部分があるが、これを裏付ける物的証拠はないので、右各供述者の利害関係等に鑑み、右各供述部分を全面的に信用することは困難である。

以上の次第で、亡熊五郎の収入額を的確に認定することは困難であるが、控え目な計算方法により、結局これを前記推認にかかる月額金三万円と認めるのが相当である。

しかるところ、亡熊五郎の生活費としては右収入額の半額とみるのが相当であるから、これを控除した同人の純収入額は月額金一万五、〇〇〇円、年額金一八万円となる。

次に同人の本件事故後における就労可能年数は統計により七、九年と認めるのが相当である。

以上により、右就労可能期間中における亡熊五郎の右逸失利益の総額につき、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して、本件事故時における現価を求めれば、金一一八万六、〇二〇円となる。

ロ ところで、右損害については、二の4で述べたところにより過失相殺し、そのうち八割程度に当る金一〇〇万円を似て被告らの損害賠償額とするのが相当である。

(2)  慰藉料

亡熊五郎が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては二の3の(2)認定の事実その他本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、金八〇万円とするのが相当である。

2  相続関係

原告らが亡熊五郎に対しそれぞれその主張の身分を有し、それぞれその主張の割合を以てこれを共同相続したことは当事者間に争いがないから、亡熊五郎が本件事故により取得した1の金一八〇万円の損害賠償請求権は原告徳田キヨ子金六〇万円、その余の原告ら各金三〇万円宛相続取得されたものというべきである。

3  原告らの固有の損害

(1)  慰藉料

原告らが亡熊五郎の妻ないし子として本件事故により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、二の3の(2)認定の事実その他本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、原告徳田キヨ子金八〇万円、その余の原告ら各金四〇万円とするのが相当である。

(2)  弁護士費用

本件記録および〔証拠略〕によれば、原告らは本件訴訟を弁護士吉田太郎に委任し、同弁護士に対し相当額の報酬金を支払う旨約していることが認められるが、このうち原告らが被告らに賠償を求めうべき金額としては、本件訴訟の経緯、認容額等を斟酌し、原告徳田キヨ子につき五万円、その余の原告らにつき各金二万五、〇〇〇円とするのが相当である。

四  損害の填補

以上述べたところによれば、原告徳田キヨ子は金一四五万円の、その余の原告らは各金七二万五、〇〇〇円の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、原告らが自賠責保険から本件事故による損害賠償金として金三〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがなく、かつこれを原告徳田キヨ子金一〇〇万円、その余の原告ら各金五〇万円の割合で分配したことは原告らの自認するところであるから、これを原告らの前記各債権額から控除すれば、その残額は原告徳田キヨ子金四五万円、その余の原告ら各金二二万五、〇〇〇円となる。

五  結論

してみれば、原告らの請求は、被告らに対し、原告徳田キヨ子において金四五万円およびこれから前記弁護士費用を控除した残金四〇万円に対する本件事故発生の翌日である昭和四二年九月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らにおいて各金二二万五、〇〇〇円および前同残金二〇万円に対する前同遅延損害金の各連帯支払を求める限度でそれぞれ正当であるが、その余は失当であるから、それぞれ右の限度でこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項但書を、仮執行宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾政行)

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